われわれ人間が、動物たちに助けてもらうことは少なくない。犬や猫と暮らせば、毎日「癒し」を与えられる。そのほかにも、欠かすことのできない活躍をしている犬たちがいる。一般に「使役犬」と呼ばれる犬たちだ。
そうした犬たちがどんな環境で生まれ、どのように成長し、どんな日常を送り、余生をどう過ごすのかについてはあまり知られていない。手足の不自由な方のサポートをする「介助犬」を紹介する。
【働く犬たち】盲導犬、介助犬、聴導犬に関する「身体障害者補助犬法」とは?
2002年に施行された「身体障害者補助犬法」は、身体にハンディキャップのある方々の自立と社会参加を促すための法律だ。公共施設や交通機関、デパート、ホテル、飲食店などでは、やむを得ない理由がある場合を除き補助犬(介助犬・盲導犬・聴導犬)の同伴を拒否できない。
【介助犬フェスタ2020】初のオンライン開催、生活動作の補助だけでなく心のケアも行う介助犬
「日本介助犬協会」は、手足の不自由な方の生活をサポートする介助犬の育成を行っている。介助犬は、使用者が車いすや杖を使って外出する時だけでなく、家の中での日常生活においても活躍する。「介助犬フェスタ2020」では、そうした仕事の一部を「PR犬」ラルフが分かりやすく紹介した。
人間の生活を幅広くサポートしてくれる介助犬…人にも動物にもやさしく楽しい社会へ
日本介助犬協会では、「犬が楽しいと思うことを自然にできるように」必要な動作を教えている。犬たちは、「仕事」としてではなく、パートナーである使用者に「褒めてもらえてうれしい」行動として学習していく。訓練士は1頭ごとの個性を慎重に理解し、「その子」に合った形で遊びの延長としてトレーニングを行う。
犬のトレーニングだけでなく、人材育成とリハビリの場としての役割も…レポート vol.1
愛知県にある「介助犬総合訓練センター」では、毎年およそ25頭の候補犬がトレーングを受けている。介助犬ユーザーが数週間宿泊し、パートナー候補の犬と一緒に訓練を受けることもある。犬の訓練施設であるとともに、介助犬の使用者がリハビリを行う場としての役割も担っている。介助犬の育成・普及活動に携わる人材を養成する研修所としての機能も果たすなど、幅広い役割を担っているのが「シンシアの丘」とも呼ばれるこの訓練センターである。
明るさに溢れた空間、犬が楽しみ自発的に行動することを重視したトレーニング…レポート vol.2
日本介助犬協会は、犬が楽しいと思うことを自然に行うように促すことで介助に必要な動作を教える。「シンシアの丘」にある日当たりの良いトレーニング室は、明るい内装やおもちゃなどで楽しい雰囲気に満ちていた。「自発的な楽しい動作」になるよう、訓練も遊びの延長として行っている。犬も訓練士も、お互いに楽しんでいる様子が伝わった。
1頭1頭の個性を尊重し、犬の幸せを第一に考える介助犬訓練…レポート vol.3[インタビュー]
「シンシアの丘」で、介助犬のトレーニングに携わっている水上センター長に話を聞いた。大切なのは、正しい訓練、1頭1頭の適性、マッチングと愛情にまとめられるようだ。個性を尊重し、それぞれに合った訓練方法とキャリア形成が大切なのは人間の教育にも参考になる。また、ユーザーとの相性を吟味し「うちの大切な子(犬たち)」の将来を慎重に決めている。
「人にも動物にもやさしく楽しい社会をめざして」…レポート vol.4[インタビュー]
健常者が普通にできることが、障害をもつと「当たり前」でなくなる。介助犬のお陰で「できるようになりました!」と報告を受ける時が一番うれしいと水上センター長は言う。そのたびに、「犬ってすごいな」とも思うそうだ。将来は、「今より、犬もHappy、人もHappy」に暮らせる社会になって、介助犬の活躍が減るようになればいいなと語る。
犬との触れ合いを人の病気治療に生かす…動物介在療法とは vol.1
日本介助犬協会では、犬との触れ合いを人間の病気治療に生かす「動物介在療法」という取り組みも行っている。リハビリテーションルームに一緒に行ったり、手術室へ付き添ったり、病室で寄り添ったりすることで、治療に前向きになれるなど、意欲を引き出す効果があるという。
社交性の高さと図太さを持った犬たちが、多くの人に前向きな力を…動物介在療法とは vol.2
病気の治療に犬の力を借りる「動物介在療法」では、犬といることで患者や家族が明るく前向きになるのを感じるそうだ。ただ、犬自身が心からその場を楽しめていないと、患者にはそれが伝わってしまう。どんな犬でもできるわけではなく、誰と一緒でも常にリラックスできる図太さをもった犬が向くという。
「1頭の犬がこんなにもたくさんの人を笑顔にする、という発見があった」…動物介在療法とは vol.3
動物介在療法に携わる犬たちは、「楽しみながらリラックス」することで人々にエネルギーをくれる。そんな犬たちの育成という仕事のやりがいは、「1頭の犬がこんなにたくさんの人を笑顔にするんだ!」という発見と感動にある。虐待を受けた子供に同伴する「付添犬」の取り組みも始まり、日本介助犬協会の犬たちは、それぞれが充実した「犬生」を送れる道を歩んでいる。
誰にでも優しい社会の実現を目指して… 日本介助犬協会の広報という仕事 vol.1
介助犬は手足の不自由な方のサポート以外にも、「動物介在療法」の現場や「付添犬」として幅広く活躍している。日本介助犬協会は、介助犬の存在とその社会的な意義に対する認知向上のための活動にも取り組んでいる。広報グループの後藤さんは、介助犬やそこで働く先輩たちが「キラキラ」輝いていたのを学生時代に見て、同協会への就職を決めたそうだ。
全国につながりを作り、より多くの人に知ってもらいたい… 日本介助犬協会の広報という仕事 vol.2
障害をもった方々が、介助犬との生活によって明るく活動的に変わっていくという。後藤さんには、そんな笑顔が一番感動的だそうだ。その感動を広めていくことで、社会全体がもっと優しくなり、「誰もが生活しやすい社会になれば」と願う。そんな社会作りの「お手伝い」をしたいと、夢を語ってくれた。
介助犬が小学生に貴重な「学びの機会」を提供…出張授業レポート
介助犬使用者が社会参加するためには、介助犬や障害者への社会的な理解が欠かせない。広報活動の一環として、日本介助犬協会は小学校での講演会も積極的に行っている。神奈川県で行われた出張授業を取材した。この小学校では、4年生が「優しい街」を考える学習の一環として、介助犬講演を毎年行っている。
実際に介助犬に会うと、その人懐っこさにまず驚く。盲導犬や介助犬など、「仕事をする犬」は真面目で辛抱強い性格というイメージを持っていたが、ペットの犬たちよりも無邪気な介助犬も少なくない。日本介助犬協会が常に強調するのは、1頭1頭の個性に合った道の見極め。それぞれに合った役割を与えられて暮らす介助犬たちは、充実した毎日を過ごしているだろう。