動物のリアルを伝えるWebメディア

犬の避妊・去勢手術に伴うメリットとリスク、様々な議論…まとめ

イメージ
  • イメージ

子犬を迎えると、動物病院でワクチン接種や健康診断を受ける。これから共に暮らす家族の一員には、ずっと健康でいてほしいというのがすべての飼い主の願いだろう。恐らくその場で出るのが、「避妊*・去勢手術はいつしますか?」という問い。

2020年のデータでは犬の53.7%が手術を受けており、そのうちの半数以上が1歳未満とされる(令和2年ペットフード協会資料)。最近の日本では、病気の予防を目的に避妊・去勢手術を行うケースが多いだろう。トイプードルやチワワ、ダックスフントなどの(超)小型犬の室内飼いが多く、予期しない繁殖が起こることはあまり考えられない。「我が子」の健康を願う飼い主の決断だろう。

一方で、避妊・去勢、特に早期の手術による健康面でのリスクに関する情報が不足している印象を受ける。医療(=ヒト向け)と同様に、命を扱う獣医療においても「インフォームドコンセント」が不可欠なのは言うまでもない。避妊・去勢手術に関しても、メリットだけでなくリスクも十分に理解した上で、それぞれの飼い主が愛犬にとって最善だと納得できる選択をすることが重要だ。

  • 【犬の避妊・去勢手術はどうすべきか vol.1】メリットとリスクを考える

    避妊手術をすることで予防できる病気として、子宮蓄膿症や乳腺腫瘍、卵巣腫瘍が挙げられる。オスの場合は、去勢することで前立腺肥大症、会陰(えいん)ヘルニア、肛門周囲腺腫のリスクが下げられると言われている。当然、精巣腫瘍にもかからない。まったくデメリットがなければ判断は容易だが、手術による中長期的な健康トラブルも指摘されている。

  • 【犬の避妊・去勢手術はどうすべきか vol.2】関節疾患や悪性腫瘍のリスクも…獣医学論文による警告

    アメリカのカリフォルニア大学デービス校やテキサス工科大学などが、犬の避妊去勢手術に関係していると考えられる健康問題に関して様々な論文を発表している。特に大型犬において前十字靭帯断裂など関節系のトラブルを引き起こすという報告をはじめ、避妊・去勢手術によってリスクが上がるとされている病気について紹介する。

  • 【犬の避妊・去勢手術はどうすべきか vol.3】悪性腫瘍の可能性? 内分泌機能の病気にも注意

    複数の研究で、避妊去勢手術が悪性腫瘍の発生に関与しているとみられる傾向があったとの報告もある。ただし、すべては「後向き調査(=過去のデータから因果関係を検討する疫学調査法の一つ)」、つまりデータから読み取った結果だ。腫瘍の種類などによっても様々で、因果関係についてはさらなる研究が必要とされている。

  • 【犬の避妊・去勢手術はどうすべきか vol.4】内分泌系疾患の可能性を考える

    避妊去勢手術で卵巣や精巣を切除することで、性ホルモンを分泌する副腎に過剰な負担がかかることを懸念する獣医師もいる。ホルモンバランスの崩れを生じて内分泌系に異常をきたし、クッシング症候群などの引き金になるという説がある。避妊手術後に太る傾向は知られているが、食事などを変えても肥満が解消しない例があり、人間では知られている「内分泌肥満」の可能性も考えられる。

  • 【犬の避妊・去勢手術はどうすべきか vol.5】信頼できるかかりつけ獣医さんとの相談

    避妊手術のメリットの1つとしてよく挙げられる乳腺腫瘍についても、改めて検証した。いずれにしても、手術を受けるか否か、受けるとしたらタイミングはいつがいいのか。100%の正解はなく、海外でも考え方が異なる。メリットだけではなくリスクも十分に理解した上で、信頼できる獣医師とよく話し合うことで後悔しない選択をしたい。

  • 犬の避妊・去勢手術に関する最新の発表 vol.1…犬種ごとのガイドライン

    カリフォルニア大学デービス校が2020年夏に発表した論文を紹介した。年間約5000件にのぼるデータを15年分集めた情報を科学的に分析し、35の犬種ごとに避妊去勢手術と関節系疾患およびがんとの関係をまとめたものである。同大学は、「リスクをできるだけ避け、好ましい手術のタイミングを決める参考となる情報をエビデンス(科学的根拠)に基づいて“ガイドライン” (=アドバイス/参考情報)としてまとめた」としており、飼い主にとっても1つの目安となるだろう。

  • 犬の避妊・去勢手術に関する最新の発表 vol.2…犬種ごとの傾向 プードル、チワワ編

    トイプードルとチワワでは、関節疾患とがんの発生に手術の有無およびそのタイミングによる目立った差は見られなかった。ミニチュアプードルは、関節疾患のリスクを避けるため去勢手術は1歳まで待つのが安心だという。スタンダードプードルでは、1歳で去勢手術を行った場合にがんの発症が多く見られたため、2歳まで待つことが安心と考えられるとしている。

  • 犬の避妊・去勢手術に関する最新の発表 vol.3…犬種ごとの傾向 シェパード、ラブラドール他

    ドーベルマン・ピンシャー、ジャーマン・シェパード、ゴールデン・レトリーバーやラブラドール・レトリーバーなどの大型犬では、身体が成長するまで手術を待つのが安心とされている。また長期的な健康を考えた場合、手術そのものを行わないことも検討することが推奨されている。

  • 犬の避妊・去勢手術に関する最新の発表 vol.4…犬種ごとの傾向 ダックスフント、マルチーズ他

    日本で飼育頭数が多いと考えられる犬種について、論文の内容を紹介(シーズー、ダックスフント、マルチーズ、ポメラニアン、パグ、ミニチュア・シュナウザー、ヨークシャーテリア)。この「ガイドライン」は、手術を検討する際の参考情報として提供されている。データ収集・分析の結果をまとめた目安であり、決定的な判断を下しているものではない。とはいえ、飼い主とかかりつけの獣医師との間で十分な検討を行い、慎重な判断を下すための参考になると考えられる。


大切な家族の一員である愛犬の幸せは、すべて飼い主にかかっている。特に健康管理に関しては、正確な情報に基づいた慎重な判断が命や健康を守ることにつながる。人間だけでなくペットに対して行われる医療行為も、基本的にはエビデンス(科学的根拠)に基づくものでなければならない。もちろん、それだけがすべてではないが、今、分かっていることは正確に理解した上で最善の判断を下したい。

* 獣医学的には「不妊」が正しいとする主張もあるが、ここではより一般的と考えられる「避妊」を使用する

《石川徹》

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top