2019年に「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律(以下、愛護法)」が成立し、第21条に動物取扱事業者に対する義務が追加された。「動物の健康及び安全を保持するとともに、生活環境の保全上の支障が生ずることを防止するため(中略)環境省令で定める基準を順守しなければならない」とされ、ペットショップや繁殖業者、競りあっせん事業者などに対する規制を環境省令で具体的に設けることになった。省令の施行は2021年6月とされ、短期間に議論が行われた。
REANIMALでは、通称「数値規制」とよばれるこの基準が作られる過程を詳しく報じてきた。まだ「理想的」とは言えないが、環境省令にはある程度の評価が与えられるべきだろう。その数値規制が作られるまでの過程を報じたものをまとめた。(※タイトルから該当記事にリンクしています)
新・動物愛護法とは?
愛護法の一部が2019年6月に改正され、2020年6月から段階的に施行された。改めて、この法律の目的や改正のポイントについて解説した。【“命の商品化”を考える vol.1】 改正された動物愛護法から見えるのは?
この改正では「8週齢規制」に例外が設けられた。生後56日に満たない子犬・子猫の販売を禁じる条項に「特例」が設けられ、日本犬は規制対象外とされた。これについて疑問の声が上がった。【“命の商品化”を考える vol. 2】改正愛護法の飼育管理基準に関する議論…動物福祉と事業者
法改正のポイントの1つは、繁殖業者や競り仲介業者、ペットショップなどの事業者に順守義務が課せられることになる「飼養管理基準」の設定である。「動物の健康及び安全を保持するとともに、生活環境の保全上の支障が生ずることを防止するため」省令として「できるだけ具体的」に定めるとしている。【“命の商品化”を考える vol.3】改正愛護法の飼育管理基準に関する議論…皆が幸せな環境づくりに期待
「飼養管理基準」(通称、数値規制)作成にあたり、ペット業界と専門家などによる議論が交わされた。現状を踏まえて実行可能な基準を求めるペット業界と、あくまで動物主体に考えるべきだとする専門家の間で意見が分かれた。最初に議論の的となったのは、ケージ等の飼育スペースに関するものだった。【“命の商品化”を考える vol.4】速報:具体的な飼育管理基準案を環境省が発表…動物福祉の向上につながるか?
議論を受けて環境省が「飼養管理基準」案を作成。犬・猫の飼育スペースや必要な従業員数、温度・湿度・日照時間などの環境管理や繁殖に関する具体的な基準が提示された。【“命の商品化”を考える vol.5】具体的な飼育管理基準案について…目的は悪質な事業者の排除
考え方は、「動物愛護の精神に則り、悪質な事業者を排除するために自治体がチェックしやすい統一的な基準を設定する」ことにある。全体として、動物の健康と安全を守る法の趣旨に沿った省令案の策定が進んでいると感じた。【“命の商品化”を考える vol.6】具体的な飼育管理基準案について…日常動作が可能なケージと閉じ込め飼育の防止
飼育スペースに関しては、「自然な動作が可能なケージサイズ」と「運動の義務化」が織り込まれた。環境省が最も重視した「閉じ込め型の飼養を防ぐ」ための施策は、事業者の実情を配慮しながらも動物福祉を重視した姿勢が感じられた。【“命の商品化”を考える vol.7】具体的な飼育管理基準案について…従業員が世話をする犬・猫の数ほか
繁殖業者やペットショップなど、現場の従業員と動物の数に関する基準案も提示された。愛護法では、世話が行き届くよう職員を十分に確保することも求めている。【“命の商品化”を考える vol.8】具体的な飼育管理基準案について…繁殖の回数・年齢・帝王切開に関する議論
繁殖の問題がもう1つの議論となった。出産回数・年齢の上限や帝王切開の方法などについて環境省案が提示され、専門家へのヒアリングが行われた。【“命の商品化”を考える vol.9】具体的な飼育管理基準案について…遺伝的疾患とオス犬の繁殖
繁殖については、オスの扱いと遺伝性疾患についての議論が欠落していた。オスは終生、繁殖に使用できる。また、大きな問題になりつつある、無秩序な繁殖による遺伝性疾患のまん延についての対策は一切検討されていない。【“命の商品化”を考える vol.10】小泉環境大臣が動物の安全と健康を守るための環境づくりを明言…新しい計画も発表
修正が加えられた環境省令案が発表された。「悪質な事業者を排除する」ため、さらに実効性のあるものとしたことが当時の小泉環境大臣から語られた。【“命の商品化”を考える vol.11】動物福祉の観点から修正が加えられたポイントと課題…新・動物愛護法
1つのスペースで複数の犬・猫を飼育する場合の条件、清掃のしやすさ、犬と猫の両方を飼育する場合の従業員数などに関する基準が加えられた。【“命の商品化”を考える vol.12】繁殖に関する診断についての議論と今後のスケジュール
帝王切開などに関わるリスクについては、「雌雄ともに繁殖に関する獣医師による診断を受けることを義務付け」という注記が加えられた。獣医師の正確な診断が前提になっており、そこをどう担保していくかが今後の課題だろう。また、遺伝性疾患については、依然として検討の俎上に上がっていない。【“命の商品化”を考える vol.13】 また一歩前進した「数値規制」…繁殖回数明記、犬猫以外も今後検討
2019年の愛護法改正以来、1年以上にわたって検討されてきた「基準順守義務」がまとまった。前回から大きく進歩したのは、メス犬の繁殖が6回までと明記されたことだろう。犬猫以外の動物および遺伝性疾患についても、検討を進める旨が追記されたのはわずかな前進と言える。【“命の商品化”を考える vol.14】「改善の意思のない業者の排除」に向けた環境省の意志と今後の課題
この内容に対し、ペット関連の業界団体である全国ペット協会が反発。環境省からは、「不適切な管理を続けるだけでなく、自治体から指摘を受けても改善の意思のない業者を対象としたもの」である旨の説明があった。「少ない数でない」、不適切な事業者の排除に対する環境省の決意が感じられた。【“命の商品化”を考える vol.15】犬猫以外の動物への配慮が追加に…新・動物愛護法
「犬猫以外の哺乳類、鳥類及び爬虫類に係る基準についても、今後検討を進める」とされており、小さな一歩は踏み出した。ただし、スケジュールなど詳細は現在に至るまで未定のままだ。【“命の商品化”を考える vol.16】無秩序な繁殖による遺伝的疾患撲滅にも小さな光明か?
愛護法には「遺伝性疾患等の問題を生じさせるおそれのある組み合わせによって繁殖をさせない」とあるが、具体的な議論は不在のままだ。今回わずかな明かりが感じられたのは、以下のくだり:「長い品種改良の歴史の中で(中略)特有の疾患のリスクがある犬種が存在することなどを踏まえ、(中略)、今後、幅広い視点から国民的な議論を進めていくことが必要」【“命の商品化”を考える vol.17】 動物愛護法の「数値規制」が正式決定…現状改善への一歩となるか
環境省令が最終決定し、2021年6月より段階的に施行されることが決まったが、一部に猶予期間が設けられるなど、ペット関連事業者への配慮が見られた。動物福祉の「理想」には遠いが、着実な一歩としての評価はできるだろう。【“命の商品化”を考える vol.18】 動物愛護法の「数値規制」、経過措置への疑問と今後への期待
ケージサイズや運動スペース、メスの交配年齢・回数や従業員の人数に関して設けられた猶予期間は最大4年におよぶ。これは、新しいケージへの入れ替えや繁殖引退犬・猫への対応準備などを考慮したものである。犬猫の競り斡旋業者団体などは不満の意を表明し、闘う姿勢を見せた。【“命の商品化”を考える vol.19】世界的にも恥ずかしくない動物福祉の実現に向けて…「数値規制」正式決定
予定通り、2021年6月から環境省令の段階的な施行が始まる。今後は、「積み残し」に関する議論を期待したい。繁殖用のオスに関する年齢上限と帝王切開の回数に制限は加えられていない。まん延する遺伝性疾患にも規制はなく、野放しのままである。犬猫以外の動物に関する議論も、いまだに始まる気配はない。【“命の商品化”を考える vol.20】 動物愛護法の「数値基準」が6月1日から施行へ… 「解説書」を環境省が作成
省令施行を前に、守るべき数値や違反となる状態等を具体的に分かりやすくまとめた「解説書」を環境省が発行した。この資料は、事業者を指導・監督する立場となる自治体職員をサポートするツールとしても活用される。【“命の商品化”を考える vol.21】 6月1日施行の動物愛護法・数値基準、 「解説書」に見る環境省の姿勢と積み残しの課題
「解説書」は、事業者を指導・監督する立場にある自治体用に、違反者に対する指導や処分の手順についても分かりやすくまとめている。厳格で速やかな対応をサポートする目的だ。環境省には自治体向けの相談窓口も設けられ、「悪質な事業者の排除」への期待がかかる。【“命の商品化”を考える vol.22】 「数値規制」が真価を発揮するかは今後の運用面がカギ…動物愛護管理法
数値規制の施行から約半年。環境省の検討会委員として策定にも参画した渋谷寛弁護士に聞いた。動物福祉を着実に向上させるためには、まず今回の省令が厳格に運用できるかが鍵だという。
昨今、劣悪な環境で犬や猫を飼育していた繁殖業者が摘発されたというニュースをたびたび聞くようになってきた。これも、愛護法の改正とそれに伴う数値規制の成果だろう。今後、各自治体による「悪質な事業者の排除」が確実に進んでいくことに期待したい。