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安全で有効な狂犬病ワクチン接種について考える…まとめ

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新型コロナウイルス感染症のまん延によってワクチンへの注目が集まる今、法律で接種が義務化されている狂犬病ワクチンについて改めて考えた。

狂犬病は、発症すればほぼ死に至る。人畜共通の恐ろしい感染症を予防することが重要なのは言うまでもない。一方で、狂犬病予防法が作られたのは70年以上前。犬に限定した1年に1回の機械的なワクチン接種が今でも安全で有効なのだろうか?

  • 狂犬病ワクチンの重篤な副反応で年10頭前後が死亡…麻布大などの研究チームが発表

    犬には1年に1度、狂犬病の予防注射を受けさせることが飼い主の義務とされている。ワクチンには必ず副反応のリスクがある。習慣的なものと捉えず、飼い主は細心の注意を払い安全な予防に努める必要がある。

  • 狂犬病は発症すれば致死率ほぼ100%、予防接種は飼い主の義務

    狂犬病は猫なども含むすべての哺乳類が感染し、発症すると、ほぼ死に至る。日本では1950年に施行された狂犬病予防法の成果によって1956年以降、人への感染例は無い(海外で感染し入国後に発症した数例を除く)。世界でも稀な「清浄国」(狂犬病がない国)だが、犬に限定したワクチン接種が1年に1度、法律で求められる。

  • 続・犬猫のワクチン接種について vol.4…狂犬病予防法の見直しは不要か?

    日本獣医師会は、現在の狂犬病ワクチン接種率を約4割と推定している。登録や予防接種を行わない飼い主が多いとされる。一方、ウイルスに感染した動物が海外から上陸するリスクを考え、ワクチン接種は必須とされる。だが、犬だけでよいのか? ウイルス侵入の実際のリスクは? ワクチン効果は1年なのか? 抗体検査は不要なのか? 70年以上前に作られた狂犬病予防法を、より安全なものにするための検討は不要なのだろうか。

  • 狂犬病ワクチンについて考える vol.1…予防の大切さとワクチンには必ずあるリスク

    100%安全なワクチンはなく、副反応のリスクはつきものである。公的なデータでは、狂犬病ワクチンが関連するとみられる死亡事例が毎年発生している。狂犬病の予防は人間(と愛犬)の命を守るために重要だが、現在は抗体検査も可能で、ワクチンの効果も知ることができる。エビデンスに基づいて、安全で効果的な狂犬病予防方法を考える。

  • 狂犬病ワクチンについて考える vol.2…効果的な接種のために重要な抗体検査

    副反応のリスクをできるだけ回避しながら、効果的な予防はできないのか? 抗体検査による接種免除は不可能なのか? ワクチン効果は今でも1年で切れてしまうのかを考える。まず、免疫の機能とワクチンの仕組みを解説。

  • 狂犬病ワクチンについて考える vol.3…北米では地域によって法規制がバラバラ

    海外から犬を連れてきたり日本から外国に連れ出したりする場合、一般には抗体検査が求められる。抗体価もWHOが明確な国際基準を定めている。しかし、狂犬病予防法では抗体検査結果によるワクチンの免除が認められない。また日本では、病気でワクチンが打てない状態でも獣医師の発行する猶予証明書に法的根拠はない。アメリカでも、一般に定期的な狂犬病ワクチン接種が義務付けられている。だが全米統一の法律はなく、動物種も犬だけでなく猫やフェレットも含まれる地域、さらには「すべての恒温動物」に義務付けるケースもある。頻度も異なるとともに、健康上の理由で法的に免除する地域も広がっている。カナダで義務化されているのはオンタリオ州のみである。

  • 狂犬病ワクチンについて考える vol.4…エビデンスに基づいた判断の重要性を主張する専門家

    アメリカの法律がまちまちな理由は、主な感染源がペット(「都市型」)なのか、野生動物(「森林型」)なのかといった地域ごとの環境によるとの主張がある。だが、森林型が多い地域でも、ペットには野生動物との接触機会がある。人間の最も近くに暮らすペットに接種が求められないのは、自治体の考え方などその他の理由が大きいと考えられる。いずれにしても、狂犬病という致死性の人畜共通感染症を予防することが重要なのはいうまでもない。ウィスコンシン大学シュルツ名誉教授は、抗体検査で陽性が確認された犬は狂犬病に対する抵抗力が持続していることを確認し論文を発表している。「(狂犬病を含む)犬用コアワクチンの場合、再接種の間隔を延ばしても病気に罹る危険性は増えない。また、それによって(=注射の回数を減らすことで)副反応のリスクは確実に減る」としている。

  • 狂犬病ワクチンについて考える vol.5…獣医師団体の提言、回数を最低限にすることの重要性

    「欧州愛玩動物獣医師会連合」などの専門家も、「あらゆるワクチン接種において、動物の1頭1頭それぞれに対してリスクとベネフィットの評価を行い、ワクチンによる負担(=接種回数)を可能な限り少なくする判断が望ましい」という。狂犬病に関しても、抗体検査の有効性と1年以上のワクチン効果をエビデンスで示す専門家がいる。一方で、狂犬病の場合は抗体検査での陽性結果が免疫力を意味しないとの主張がある。アメリカの場合、ワクチン接種が法的義務とされ、改正されないのもそれが理由とされている。

  • 狂犬病ワクチンについて考える vol.6…抗体検査に対する否定的意見と微妙な言い回しへの違和感

    アメリカ獣医師会は、抗体検査での陽性が必ずしも狂犬病に対する防御能を意味しないとしてワクチン接種義務の必要性を主張する。これは、主にジョージワシントン大学が発表した文献調査を基にしている。「命に関わるリスクがある狂犬病については検査と評価の方法を選ぶことには慎重であるべき」として、WHOが定め全世界で採用されている抗体検査方法(RFFIT法:迅速蛍光焦点抑制試験法)を否定している。人間用の狂犬病ワクチン開発や認証にも使われている検査に不安があるのだろうか?

  • 狂犬病ワクチンについて考える vol.7…「ラベルが違うだけで同じモノ?」 狂犬病ワクチンへの疑念

    北米で使用される狂犬病ワクチンには、毎年接種するものと3年に1回のものがある。これについて、「違いはラベルだけ」と実名と所属、顔写真を公開して明言する獣医師がカナダにいる。

  • 狂犬病ワクチンについて考える vol.8…狂犬病予防法に対する提言、海外から持ち込まれるリスクは「36万年に1度」

    「清浄国」である日本で毎年の狂犬病ワクチン接種が必要とされるのは、海外からのウイルス侵入リスクが排除できないからと主張する獣医師がいる。東京大学の杉浦教授らによる研究では、「(そうした)リスクは36万年に1度」とされる。今年がその年にあたらない保証はなく、恐ろしい感染症の予防が大切なのは言うまでもない。だが、狂犬病予防法は70年前に制定されたもの。犬に限定して1年に1度、機械的に行われているワクチン接種の再検討は必要ないのだろうか? ワクチンに反応しない「ノンレスポンダー」を抗体検査で見つける必要はないのだろうか? 陽性であれば免除すべきではないのか? 時代と共に変化する社会環境や獣医療の知見に合わせた規制を設けることが、人間にとっても、より効果的で安全な予防につながるはずだ。

  • 狂犬病ワクチンについて考える vol.9…有効年数のラベル表示よりも長く効果を発揮、米研究

    ウィスコンシン大学のシュルツ名誉教授が行った「攻撃試験」の結果が発表された。犬への狂犬病ワクチンの効果が、接種後の長期間にわたり持続することが分かった。カナダ獣医師会によると、ワクチン接種から6年を超えた犬の80%が狂犬病ウイルスに感染しなかったという。免疫力の確認には、抗体検査結果が重要な指標となり得ることも確認できた。日本と北米では、使用されるワクチンに含まれる添加剤や保存剤、「有効期間に関するラベル表示」などに違いはある。だが、毒性をなくしたウイルスを使って免疫を誘発するしくみは同じで、参考となる点は少なくないと考えられる。日本では、毎年約10頭が死亡している狂犬病ワクチンだが、より安全で効果的な予防方法が日本でも検討されることを期待したい。

  • 狂犬病ワクチンについて考える vol.10…日本のワクチンメーカーも認める抗体検査の大切さ

    シュルツ教授の論文は、「定期的なワクチン接種だけに頼る現在の方法では、免疫反応の確認はできずノンレスポンダーやワクチンの失敗を見逃すことになる」として、抗体検査による免疫レベル確認の重要性を唱える。実際、アメリカではきちんとワクチン接種を受けていた犬が、野生動物から狂犬病に感染した例も複数報告されているという。日本での調査では、接種歴が2回以上の犬では95.5%が十分な抗体をもっていた。2回以上の接種歴がある犬への再接種後に行った抗体検査では、抗体価が最大で4096倍と基準値に比べ非常に高い。人間ではワクチンが「自己免疫疾患」の原因となることがある。犬についても、過剰接種が「免疫介在性疾患」につながる可能性はないのだろうか? いずれにしても、95.5%が十分な抗体をもつことが分かっていながら、機械的な再接種を行う必要はないと考えられる。

  • 狂犬病ワクチンについて考える vol.11…人間はもちろん、動物たちの命と健康を守るために

    「国際獣疫事務局(OIE)」は、「犬用のワクチン接種ばかりを強調しても、(中略)野生動物狂犬病の発生リスクは否定できない」と、日本の予防対策の不備を指摘する。日本と同じ清浄国のイギリスでは、犬や猫へのワクチン接種は義務化されていない。オーストラリア、ハワイも同様である。東大の杉浦教授によれば、イギリスは「ワクチン接種に頼ることなく(中略)撲滅に成功」している。


1年に1度、犬に限定したワクチン接種のみに頼る日本の予防方法には再考すべき点がある。狂犬病予防法の基となった、終戦直後の社会環境や科学的知見は時代とともに大きく変わった。野犬に遭遇するよりも、猫と接触する機会の方がはるかに多いだろう。アライグマなどの動物が民家に現れることも増えた。動物種、ワクチン接種の頻度、免疫力の確認など、70年前に作られた法律を一度見直すことも大切ではないだろうか? ペットたちと、何よりも確実に人間の命を守るために。

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《石川徹》

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