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遺伝病の撲滅に向けた犬・猫の遺伝子検査 vol.2…検査への賛否と海外の動向

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前回は、犬・猫の遺伝病リスクをチェックするための遺伝子(DNA)検査について、ペットショップチェーンと競りあっせん業者、それぞれに異なるスタンスを紹介した。

その中でも、「日本最大のペットオークション」を標榜するプリペットは、検査に強く反対するステートメントを発表している。

遺伝子検査の限界と「命の選別」

その理由としては、遺伝子検査の限界を挙げている。全ての病気に関わる遺伝子を解明することが不可能であることや、遺伝子検査で問題がなくても遺伝性疾患を発症するケースが「1%ある」と指摘。また、「検査をして不良品を排除する」工業製品と、命ある犬猫を同等に扱うものであるとして、遺伝子検査を「命の選別」につながるとも表現している。

犬・猫の遺伝子検査とは?

犬や猫の遺伝病リスクを発見するために行われるDNA検査で、結果は「クリア」(または「ノーマル」)、「キャリア」および「アフェクテッド」の3つに分類される。「クリア」と診断された場合、少なくとも検査を行った疾患については遺伝子変異が見られず発症の心配はないとされる。日本語では「保因者」とも言う「キャリア」は、遺伝子上の変異は認められるものの健康体であるケースを言う。遺伝子に変異が認められ、症状が出ている場合は「アフェクテッド」に分類される。

(該当する遺伝性疾患が、「顕性=優性遺伝」か「潜性=劣勢遺伝」かなど遺伝の仕組みによって細かく異なる場合もあるが、ここでは発症する、もしくは発症し得る状態を「アフェクテッド」、遺伝子上に因子は持っていても発症しない状態を「キャリア」とする。)

遺伝子検査の限界と可能性

プリペットが主張するように、現在行われている遺伝子検査が、非常に多種にわたる遺伝病全てについてのリスクを発見できるわけではない。「"命の商品化"を考える」シリーズのvo.16で紹介したように、イギリスのウェブサイト「ドッグ・ブリード・ヘルス」にはDNA検査で検出可能なものとそうでない遺伝性疾患が犬種ごとにリストアップされている。例えばトイプードルに見られる傾向のある遺伝的疾患のうち、8種類が遺伝子検査可能な一方、16種類はDNA検査での診断は行われていない。

とはいえ、アニコム先進医療研究所のHPを見ると、既に犬では30種類近い遺伝病の診断がDNA検査で可能となっている。コーギーのDMや柴犬が発症する「GM1ガングリオシドーシス」など治療法のない致死性の疾患を含め、犬種ごとに頻発する遺伝性疾患の多くはリスク診断が可能だ。猫についても、腎臓機能を損なう難病の多発性嚢胞腎や原因不明で治療法もない心疾患である肥大型心筋症など10を超える遺伝病の診断が可能とされている。

イギリスは国をあげて犬の繁殖の改善に取り組む

犬の遺伝子検査に積極的な姿勢を示しているのはイギリスである。この国では動物愛護団体や獣医師会といった動物関連団体だけでなく、超党派の国会議員連盟や環境省なども犬の繁殖に関する問題解決に取り組んでいる。「イギリスの動物愛護事情 vol.3」で紹介したように、2008年に立ち上げられた「ドッグ・ブリーディング・ステークホルダー・グループ」は、「子犬契約書(Puppy Contract)」という資料を作成して「責任ある繁殖」の普及を目指している。

「子犬契約書」では遺伝子検査を推奨

子犬契約書はブリーダーと飼い主の両方を対象に作成されており、主に子犬の飼育環境やしつけ、健康管理などを専門家による監修のもとで解説。同資料では遺伝疾患とDNA検査についても詳細に解説されている。「テストによって、将来病気に罹るリスクがあるかどうか、保因者(=キャリア:病気を子孫に伝染させる可能性がある)かそうでないかを評価することができる」としている。

「もしブリーダーが(遺伝子)検査をしていない、検査結果を見せられないと言った場合、(そのブリーダーから子犬の)購入はやめるべき」とも書かれている。その一方、両親犬と子犬、全ての遺伝子検査結果診断書を見せてくれるブリーダーに出会うことができれば、「健康で幸せな子犬との生活にかなり近づいた」と表現している。つまり、英国政府も犬(この場合は子犬だけでなく両親犬)の遺伝子検査の有効性を認めているのだ。

遺伝子検査の目的は、病気で苦しむ動物の誕生を未然に防止

AHBの例にもあるように、日本でもすでに親犬の遺伝子検査を行うブリーダーがいる。これは、一見して健康体であるため判別がつかない「キャリア」を発見し、繁殖から外すなど遺伝的疾患をもった子ども(「アフェクテッド」や「キャリア」)の誕生を防止することも目的としている。健康な子犬・子猫が増えることは、動物福祉の観点や将来の飼い主の幸せだけでなく、繁殖業者にとっての顧客である競りあっせん業者やペットショップのメリットにもつながるだろう。

実際に、ペットパークから平成31年1月付でオークション参加業者に出された通知「ウェルシュ・コーギー遺伝子検査におけるご案内」には、「出荷される子犬自体が『クリア』であると、出荷においても大変優位であることは、実際に出荷ケースのあるペットパークでは知られております。」(原文ママ)との表記がある。イギリスだけでなく、日本においても犬猫の遺伝子検査による遺伝病のチェックは信頼性のあるものとして認知されていると考えていいだろう。

次回は、遺伝子検査に関連する今後の課題を整理し、それを踏まえて一般の飼い主が何をすべきかについて考える。

《石川徹》

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