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狂犬病ワクチンについて考える vol.7…「ラベルが違うだけで同じモノ?」 狂犬病ワクチンへの疑念

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これまで、狂犬病の怖さと予防の大切さについてまとめてきました。さらに、ワクチン接種の頻度を最低限に抑えるべきとする専門家の意見と、それに反対する考え方をご紹介してきました。今回は、北米で言われている興味深い話を1つご紹介します。

3年間有効なワクチンと1年のものは何が違う?

以前ご紹介したように、アメリカでは毎年の狂犬病ワクチン接種が法律で義務化されている地域と3年ごとの地域が混在しています(参考記事)。それに合わせるように、狂犬病ワクチンも3年間有効とされている製品と有効期間が1年のものがあります(便宜上、「1年ワクチン」と「3年ワクチン」と呼びます)。これまでに紹介してきた「免疫持続期間(DOI)」についても検証するため、1年ワクチンと3年ワクチンの違いについても少し調べてみました。

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ワクチン接種による免疫力は何年も保たれる

繰り返しになりますが、いわゆる「混合ワクチン」に含まれる「コアワクチン」(ジステンパーウイルス、パルボウイルス、アデノウイルスそれぞれに対応するワクチン)の場合、1回の予防注射でDOIが最低3年、場合によっては「終生免疫」(一生、病気から守られる)ができると言われています。狂犬病ワクチンの場合も最低3年は免疫が持続するという論文が発表されています。また、ウィスコンシン大学のロナルド・シュルツ名誉教授が2016年に専門家に送付したレターには、ワクチン接種後7年間は狂犬病の感染を防止したと明記されています。

違いはないとする獣医師

1年ワクチンと3年ワクチンのDOIについては今のところ獣医学論文が見つかっていません。しかし、獣医さんが顔写真と共に氏名や所属などを明らかにして執筆しているウェブサイトには、「ラベルの違いだけ」とする記述が見られます。カナダのクレイトン・グリーンウェイ獣医師は、「healthcareforpets.com」というウェブサイトで一般の飼い主からの質問に対して以下のように回答しています。

「ご質問にお答えしようと努力しましたが、(ワクチンの)メーカーに確認しても、2種類のワクチンが同じものか、わずかでも処方が違うかについては明確に答えてくれないでしょう。研究試験の結果は幾つか示されましたが、2つの製品の違いはほとんどありませんでした。この状況から、これらのワクチンの違いを私から公式にお知らせすることはできません。私が言えるのは次のことです」

「狂犬病ワクチンは法律で義務化されています。医療カルテに記録され、咬傷事故や輸出入の際に提出が求められることもあり得ます。もし有効期間が1年の狂犬病ワクチンを(あなたの愛犬に)接種させて、2年後に『3年間有効のワクチンと同じものだから問題ない』と言っても、証明書は発行されないでしょう。医学的な議論はありますが、法律で定められているためできることはありません。常に3年間有効な狂犬病ワクチンを打つことで、接種回数を抑えることをお勧めします。このお答えが役に立てばと思います」(healthcareforpets.com)

違いは「ラベルだけ」?

アメリカの「the spruce Pets」というウェブサイトでは、獣医療関係者(メリッサ・マレー動物看護師執筆、ローレン・スミス獣医師監修)がさらに率直な意見を述べています。

「3年間有効な狂犬病ワクチンは1年のものと実際には同じです。用量も免疫反応を引き起こす物質も変わりありません。単にラベルが違うだけです。1年間有効と書かれたラベルのワクチンを接種しても技術的には3年間守られますが、法的には3年間守られるわけではありません(筆者訳)」(the spruce Pets)

これまでに何度かご紹介したカレン・ベッカー獣医師も同様です。ウェブサイト「healthy pets」において、3年ワクチンは1年ワクチンと同一(identical)であるとし、法的に問題がなければ常に3年ワクチンを選んで接種回数を減らすことを勧めています。

これまでに見えてきたこと

7回にわたって狂犬病ワクチンに関してこれまでご紹介してきたことを整理すると、以下のようなポイントにまとめられます。

1.狂犬病ワクチン接種の効果を図る抗体検査は既に行われている
2.WHO(世界保健機構)が抗体価の基準値を定めており、世界中で動物の輸出入の際に使用されている
3. 抗体検査で陽性が確認された場合、ワクチン接種によって病気に対する免疫反応が生じたことの証明になる
4.陽性であることと感染を防ぐ免疫力が十分にあることを検証する手法は確立されていないという主張がある
5.それを理由として、少なくともアメリカでは抗体検査結果によるワクチン接種免除は認められていない
6.それに対して、エビデンスを提示して反論する専門家がいる
7. 人間用のワクチンにおいては抗体検査が免疫力の評価に世界中で使われている
9.その他:1年ワクチンと3年ワクチンは同一だと明言する獣医師が複数いる(カナダ、アメリカ)

抗体を持っている場合は狂犬病ウイルスに晒されても発症しなかったことが犬への「チャレンジ試験」で証明されています。また、狂犬病以外の犬用コアワクチンでは、陽性の場合は免疫力があるということが現在の常識となっています。さらに、人間の場合は狂犬病に関する抗体検査が世界中で有効とされています。

北米と欧州の専門家の意見からは複雑な事情がうかがえる?

しかしながら、「4」の狂犬病に対する免疫力評価と実際に病気から守る力との関連に関する見解が獣医療のコミュニティで統一されない限り、アメリカでも日本でも狂犬病ワクチン接種に関する免除の条項を法律に加えていくことは難しいと感じました。個人的な印象ですが、前回ご紹介した「難解な表現」とジョージワシントン大学による論文、今回ご紹介した「ラベルの違い」に関するエピソードなどからは、純粋な獣医療だけでない複雑な事情がうかがえるような気がします。  

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最終回の次回は、これら様々なポイントを踏まえた上で、日本の狂犬病予防法に対する問題提起と私たち飼い主が考えたいことをまとめます。

《石川徹》

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