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続・犬猫のワクチン接種について vol.3…子犬・子猫の場合

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このシリーズのvol.1vol.2で、犬と猫のワクチン接種に関する考え方を紹介した。ただし、どちらも基本的には成犬・成猫に関することで、子犬や子猫の場合は異なるワクチンプログラムが必要となる。

これについても過去のシリーズで触れているが(参考記事)、改めて子犬と子猫が基礎的な免疫を獲得するまでに必要なワクチン接種についてまとめた。

子犬の基礎免疫

子犬は生まれた時に母犬から抗体を受け継ぎ、病気から身を守っている。これを、「移行抗体」と呼ぶが、一般的に生後8週から12週までには機能が低下するといわれる。移行抗体が働いている間は、既に免疫によって守られているため、仮にワクチンを接種したとしても効果が無い。

世界小動物獣医師会(WSAVA)の「ワクチネーション・ガイドライン・グループ(VGG)」は、生後6~8週で初回のワクチン接種を行った後、16週またはそれ以降までに2~4週間隔で接種を行うことを推奨している(4月の記事参照)。移行抗体の持続期間、つまりワクチンが作用しない状態は個体によってかなりのばらつきがあるため、複数回の接種を行うことで確実に防御的免疫反応を生じさせるためである。一般に、ブリーダーなどで1回目の混合ワクチン接種を受けた後に家庭に迎え、その後は飼い主が複数回、動物病院で接種を受けさせるのはこのためである。

子猫の基礎免疫

子猫の場合も、子犬と同様に生まれた直後は移行抗体によって守られている。その後、生後8週から12週あたりで免疫力が低下する傾向にあるのも犬と同様だが、VGGによるとそのバラつきは犬よりも大きいようだ。8週齢以前の早期に移行抗体が無くなり、病気に対して無防備な状態になるとともにワクチンに応答可能な状態になる個体もある。一方で、最近の研究では20週齢でも移行抗体の防御能力が存在するケースもあるとのこと。また、16週齢でコアワクチンの最後の接種を行っても3分の1にのぼる子猫がこれに反応しなかった(VGG)という試験結果もあるそうだ。

そのような状況も考慮の上、現状のガイドラインでは子猫のワクチン接種タイミングを子犬の場合と同様としている。つまり、「6~8週齢で開始し、16週齢またはそれ以降まで2~4週ごとに接種を繰り返す」(VGG)というものだ。

獣医師とのコミュニケーションによる適切なワクチン接種が大切

人間の場合、例えば「はしか」のワクチンは一度接種したら一生有効とされている。東京・目黒にある安田獣医科医院の安田英巳獣医師によれば、犬のコアワクチン(3種)および猫の猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)も、基本的にはそれと同様と考えて良いようだ。

製薬メーカーの混合ワクチン説明書には、上記の様な子犬への用法は明記されている。しかし、成犬に対する「毎年1回の接種」という記載はなく、習慣的に行われている1年ごとの定期的接種は「適応外用法」となる。したがって、本来、獣医師はエビデンスを提示して飼い主にそのことを説明する必要がある。毎年の接種によって万が一事故が起きた場合、インフォームドコンセントが得られていないと獣医師が責任を問われることにもなり得るからだ。

ただし、ワクチン接種そのものの否定ではない。VGGも「ワクチンは不必要に接種すべきではない」と明言しているが、同時に、必要であれば接種を行うことの大切さにも言及している。大切なのは、かかりつけの獣医師による診断を受けた上で、エビデンスに基づいた適切なワクチン接種プログラムを決定することである。

「ノンレスポンダー」といってワクチンに反応しない(抗体ができない)人間は一定数存在する。これは犬や猫でも同様で、安田獣医師によると、コアワクチンを接種しても稀に抗体価が上がらない個体もいることが分かっているそうだ。不要なリスクやストレスを無くすだけでなく、そうした例外的なケースを発見し適切な病気予防を行うためにも抗体検査は重要と言える。

飼い主の正しい知識が愛犬・愛猫の健康と幸せにつながる

4月のシリーズと合わせ、これまで6回にわたって犬と猫のワクチンについて紹介してきた。いずれにしても、愛犬や愛猫の健康と命はほぼ100%飼い主にかかっている。免疫持続期間や対応する病原菌に対する正しい理解をもつことで、不要な副作用のリスクを回避しながら必要なワクチンを必要なタイミングで接種する。そうした知識が、大切な家族の一員であるペットの幸せにつながるのではないだろうか。

《石川徹》

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