動物愛護に関しては見習うべき点も多いイギリスだが、独自の問題も抱えている。何事に関しても「理想郷」は存在しない。良い部分を参考に、改善が必要な点は反面教師としながら、理性的に考えることが動物たちの幸せにつながるだろう。
REANIMALでは、そんなイギリスの動物愛護事情を紹介してきた。日本ではほとんど話題に上らない断耳が、イギリスでは虐待として法律で禁止されている。劣悪な環境で犬や猫の繁殖を行う「パピーファーム」の存在は、万国共通の問題のようだ。
また、この国独自の闇も抱えている。見た目が怖い(と思われる)だけで犬が殺処分されるような法律は、絶対に日本に導入すべきではない。良い点・悪い面を取り混ぜて、イギリスにおける動物愛護事情を紹介した記事をまとめた。
子犬や子猫を、ペットショップなどブリーダー以外の「第三者」が販売することを禁止する法律が2020年4月にイングランドで施行された。ブリーダーも、子犬・子猫が産まれた場所で母親と一緒に生活する様子を顧客に直接見せることが義務づけられる。イギリスで社会問題になっている「パピーファーム(=子犬農場:アメリカではパピーミル=子犬工場が一般的)」を無くすための取り組みの1つである。
イギリスの動物愛護事情 vol.1…ペット取引の驚くべき「ダークサイド」
イギリスでも、「お金のために動物を不適切に扱う、想像以上に悪質な業者」が存在する。そして、そのような業者から購入することは、間接的にそうした業界の生き残りに加担していることにもなると政府が中心となって警鐘を鳴らしている。
イギリスの動物愛護事情 vol.2…不幸な動物たちを減らすための活動と日本が学ぶべきこと
イギリス政府も参画している「ゲット・ユア・ペット・セーフリー(=ペットを安全に迎えよう)」キャンペーンのウェブサイトには、適切なブリーダーを見分けるためのチェックリストなどが提供されている。また、著名人もメンバーとして参加する歴史ある「王立動物虐待防止協会」なども協力し、劣悪な環境で暮らす動物たちを救う努力が行われている。
イギリスの動物愛護事情 vol.3…幸せのための「子犬契約書」
犬の繁殖に関する問題を解決する努力として、獣医師会や国会議員連盟、愛護団体などが「ドッグ・ブリーディング・ステークホルダー・グループ」を2008年に立ち上げた。「繁殖と子犬の購入は、責任ある行為であるべき」という意識を高めるためのツールとして、同グループが製作した「パピー・コントラクト(子犬契約書)」を紹介する。
イギリスの動物愛護事情 vol.4…健全な繁殖と健康な子犬のための取り組み
「パピー・コントラクト」は、一般の飼い主向けに子犬を迎える時に注意すべきポイントを詳細に説明している。愛犬家が優良ブリーダーを見極めるサポートをすることで、違法業者をなくしていこうとする取り組みである。同時にブリーダーに対しても、パピー・コントラクトは責任あるケアを行うための指針を示す役割を果たしている。
イギリスの動物愛護事情 vol.5…犬の福祉向上に向けた署名活動、断耳された犬の輸入禁止
垂れ耳で生まれた犬の耳を切断し、立ち上がるように成形する行為を「断耳(だんじ)」と呼ぶ。使役犬として生活していた時代には安全性や作業効率向上の目的があった断耳だが、現代社会では必然性がない。手術後は傷の回復に数週間を要するだけでなく、感染症などのリスクもある。イギリスでは120年以上も前に違法とされたが、海外で手術を受けさせるなどの脱法行為が今も行われている。
イギリスの動物愛護事情 vol.6…大きく遅れていた動物虐待の罰則、刑期を最高5年に引き上げ
動物福祉に関しては先行しているイメージのイギリスだが、虐待に対する罰則については遅れをとっていた。先進諸国の多くでは最高刑が5年とされている動物虐待が、イングランドとウェールズでは6か月の収監にとどまっていた。今年3月に、最高刑を引き上げる法案が下院で可決された。
イギリスの動物愛護事情 vol.7…動物虐待に対する最高刑の引き上げが決定
上記記事の続報。4月29日に、この法案が英国政府によって承認された。それまで6か月の刑務所への収監が最高刑であった動物の虐待が5年に引き上げられ、2か月の猶予期間を経て6月29日より改正法が施行された。
イギリスの環境・食糧・農村地域省(DEFRA)が5月12日、「動物福祉のための行動計画」を発表した。ペットや畜産動物、野生動物を保護するための幅広い取り組みをまとめたものだ。人間同様に「感覚を持った存在」である動物の福祉が、今後、イギリス政府の政策決定に大きな影響を与えることになりそうだ。
イギリスの動物愛護事情 vol.8…王立動物虐待防止協会が動物福祉の向上へ40の提言、「どんな動物も置き去りにしない」
イギリス政府による「動物福祉のための行動計画」に対して、「王立動物虐待防止協会(RSPCA)」も、動物の保護と福祉の向上に向けた提言を行った。「どんな動物も置き去りにしない」と題したこのレポートは包括的にまとめられており、提言は愛玩動物、畜産動物、野生動物の福祉と自然保護の観点から40項目にのぼる。
イギリスの動物愛護事情 vol.9 … 王立動物虐待防止協会の提言、畜産動物の福祉向上には世界的な視点も
「王立動物虐待防止協会(RSPCA)」の提言は、畜産動物への配慮にも触れている。ブタの「分娩箱」廃止やニワトリの健全な飼養方法など多岐にわたり、動物福祉に対する意識の高さがうかがえる。
イギリスの動物愛護事情 vol.10…王立動物虐待防止協会の提言、 野生動物保護のために包括的な法整備
「王立動物虐待防止協会(RSPCA)」の動物福祉改善に対する提言は野生生物にも及ぶ。現行法の内容が複雑で断片的、かつ時代に即していないとして、全面的な見直しを求めている。
イギリスの動物愛護事情 vol.11…見た目だけで死刑判決を受ける犬たち
イギリスには、「Dangerous Dogs Act (=危険な犬に関する法律)」があり、繁殖・販売・譲渡や、口輪とリードを着けずに自宅敷地外に連れ出すことが違法とされる犬種がある。そうした犬は基本的に飼育自体が禁止されている。危険性についての判断は警察の担当者が行うが、両親の犬種やDNA検査、行動履歴などは一切関係なく、外見で決められる。Dangerous Dogとされた場合、譲渡も認められず殺処分されるという。
イギリスの動物愛護事情 vol.12…危険なのは犬でなく飼い主
アメリカにも「特定犬種規制法(BSL)」と呼ばれる同様の法律がある。そしてこれに似たものが日本にも存在する。茨城県と佐賀県では、一部の大型犬種を檻で飼うよう強制する条例がある。しかし、BSLには科学的根拠がないとして、英米では否定されるのが昨今の傾向だ。重要なのは、飼い主による管理だという考え方が現在の知性的な考え方である。
イギリスの動物愛護事情 vol.13…獣医師会や動物保護団体が犬の外見による「死刑判決」に反対
イギリスの保護団体によると、「Dangerous Dogs Act (=危険な犬に関する法律)」のために殺処分せざるを得なかった犬たちは、2016年から現在までに分かっているだけでも482頭にのぼるという。一方、咬傷事故による入院患者数は1999年から2019年の間に2.5倍以上も増加した。この法律には科学的根拠も実効性もないとして、廃止を求める声が高まっている。
このように、イギリスには動物福祉先進国のイメージ通りの側面もあれば、逆に日本よりも遅れている部分もある。良きにつけ悪しきに付け、学ぶものは少なくない。我々もイギリスに負けない、動物福祉先進国になれるよう一人一人が意識を高くもって生活したい。